ロッキー山脈の麓でスキー 
鈴木明人OB(40年卒

          
はじめに                        

アメリカ合衆国ベイル(Vail)というと、あまり知らない人が多いのでないでしょうか?そういう私も昨2010年暮れまで「ベイルってどこ」と思っていました。

実はスイスのツエルマットに行こうと計画をしており、参加者を募っていたときに、早稲田大学ワンダーフォーゲル部のOBでわれわれより先輩から「海外でスキーするなら是非。ベイルに行ってみてはどうですか?私はここ7年間もベイルにはまってますよ、実は今年(2010年)暮れにも行くんですよ。」と言われた。「表側は圧雪してあり、裏側はいつも新雪で、滑りきれない斜面が沢山あるから、是非試してみてください。知人が現地にいるから紹介します。」こんな話で始まったベイルの旅です。

最初に場所の話をします。アメリカ合衆国コロラド州デンバーここはアメリカ国民がロッキー山脈を眺めに来る都市です。ベイルはこのデンバーから車で2時間半離れた標高約2500mという高地に位置しています。ロッキー山脈の雄大な地形を生かして民間人がリゾート地として開発した広いスキー場で、ベイルのほかにビーバークリークなど近くにはいくつかのスキー場が広がっています。

私が勤務していた大成建設のスキー仲間にも一緒に行こうと声をかけたのですが、場所が未知なためか同行者が集まらず、今回私と同行したのはパートナーのKさんです。

一般的に海外のスキーというと団体ツアーで旅行会社に頼むことが多いのですが、我々は自分たちで旅行を組み立てるのが好きなので、自由旅行にしました。但し現地の手配は、日本人で現地にいるスキーアメリカの大森良子さんにお願いしました。

デンバーには日本からの直行便がないので、サンフランシスコなどから乗り継ぎをします。デンバー空港は非常に大きな空港でターミナルが3箇所あり、これらが地下鉄でつながっています。デンバー空港から乗り合いのコロラド・マウンテン・エクスプレスに乗ります、この車は10人程度乗れるワゴン車で空港からベイルまで2時間半で行きます。空港で一緒になった日本人はすでに8回もベイルに来ているというベテランで、途中トイレタイムをうまく頼んでくれました。

ベイルについたのは夕方18時ころ、宿は日本人がよく泊まるエバーグリーン・ロッジです。日本出発から20時間以上経っていたので、疲れてその日は早めに就寝。

翌日、スキーアメリカのジミー大森さんが宿に来てくれました。大森さんと同行して、スキー板のレンタルショップに行き、スキー板とストックを借りました。私はケスレーの白いプレートなしの板です。ケスレーは往年の名スキーです、会社はつぶれたがブランドが大切ということで復活したそうです。


フロントサイド

ベイルは八方尾根の14倍の広さがあるといわれています。このような広大なスキー場ですが、入口は3箇所です。


ベイルのフロントサイトの状況です。

右下からライオンズヘッド、中央に並んでベイルビレッジとゴールデンヘッドがあり、この3箇所からリフトまたはゴンドラでスキー場に入ります。

我々はジミー大森さんとライオンズヘッド(2475m)から上に上がるのですが、最初にスキー場入り口にあるポストでDaily Grooming Report すなわちどこが圧雪してあるかを書いてある地図をもらうようにアドバイスされました。ベイルは広いので新雪が降るとそのままのところが沢山出ます。なれないスキーャーは新雪を無理して滑らないで圧雪してあるところをすべることができるようにこの地図ではどこが圧雪してあるか示しています。ちなみに日本ではスキー場の中のほとんどが圧雪してあります。

ライオンズヘッド19番のゴンドラの入口には多くのスキー客がおり、日本のすいているリフトになれた私には不思議でした。8人乗りのゴンドラでイーグルネストに登りました。

 
 

写真―2 後方がホーリークロス山

ここからはロッキーのホーリークロス山(4557m)がよく見える、ここから7番リフトまでは下りになっていて連絡路をくだり、リフト上の斜面にでます。7番リフトで標高3347mのワイルドウッドに登る。さていよいよスキーです、最初は足慣らしにロストボーイの初心者コースをすべる、次にまた7番リフトで上に登りリフト沿いの中級者用ショウボートに入るここはすばらしい、幅が広くそしてウエーブが少しある斜面で人も少なく思い切り飛ばして大きく回りながら滑れる。3本目にミッドベイルに向けて、大森さんとスキー板を交換したり、道に迷ったら青いスキーウエアのインストラクターに聞いたら良いと指導を受けながら下る。ここで大森さんから「鈴木さんは上手だからガイドなしでも大丈夫です。」との了解をいただく。ベイルは広いし初心者コースからベテランコースまでいろいろ混じっており、過去にガイドなしで迷った人、遭難した人が多いので、大森さんも我々の足並みを見る前は心配だったのである。

我々はツエルマットでもガイドレスで行動したが、ガイドレスでこのように広いスキー場に入るには、@地図が読めること、A山勘があること、Bビバークができること、C言語(英語)が話せること、Dどのような斜面でも確実に滑れること、E自分たちの実力にあったゲレンデを選定して滑ること(我々は原則として初級・中級コースをすべることにした。)、F疲れたら無理をしないこと、G早めに引き上げること、これらを守れないと事故を起こすことになる。

ミッドベイルで分かれて、4番のマウンテントップエキスプレスでヘンリーヒュッテ(3430m)に上る、ここで息切れを感じる。初級のラムショウから中級コースを経て、ミッドベイルで昼食。ここでイタリアンのパスタを食べたがこれが胃にもたれて困る。午後4番リフトで上に行き、ノースウッドエキスプレス11番リフト下駅を目指してテンバーライン迂回路を下る予定がバックボウルに入ってしまう。初日はフロントサイドだけの予定が、上級の未圧雪バーンに入りこんでしまった。慎重にトラバースをして大きな急な斜面を下る、ここは広い盆地状の斜面で新雪になれていればどこでも滑れる、途中から下のリフトが見えたので17番サンアップリフト下に滑り込む。Kさんが山に慣れていて助かる。バックボウルの17番サンアップリフトを登り稜線から中級のウイスキージャック、初級のフラップジャックを経て11番ノースウッドリフト下に出る。ウイスキージャックはその後何度かすべるが、林の中に広い圧雪した斜面があり、飛ばして滑れる。リフトに近づくと、どこにもSlow Zone(スピードを緩める場所)の標識がある。ヘンリーヒュッテから初級のラムショウを3番のワイルドウッドリフト下に滑り込む、ここから3番リフトで上に行き、初級で尾根上になっているイーグルネストリッジをイーグルネストにくだる。ここからは中級のボーンフリーを下まで滑り降りるのだが、長い斜面で何回も休みながら下ることになった。

 

ライオンズヘッドへの下り道

 
                        ゴンドラから見たライオンズヘッド
 

バックボウル

昨日ルートを間違えた部分を確認すること、そしてバックボウルを試すことを目的に動く。

 
                  いつも新雪に覆われている“バックボウル”

3430mのヘンリーヒュッテからバックボウル側をよく見ると尾根が2本見える。昨日間違えたのは5番のハイヌーンリフト側の尾根であることがわかる、本日は注意深くツーエルクロッジに向かう緩やかな尾根を選ぶことにしてテンバーライン迂回路をすべる。ここは尾根から離れると森林地帯を縫うようにして14番のソウルダーリフトにつながっている。さらに下へと向かいフラップジャックから11番リフトの下をとおりノースフェース迂回路を経て中級のプライムで少し楽しみ、ブリスク迂回路をくだりベイルビレッジに下りた。

6番のビババーンリフトの乗り場でリフト券の確認がバーコードである。長いビババーンリフトさらに11番のノースウッドリフトに乗り継ぎヘンリーヒュッテにでる。さらにエスプレッソをくだりミッドベイルに降りて昼食にする。ベイルの良い点は飲料水が自由に飲めることである。ヨーロッパでは昼食にボトルの水を買わなくてはならないが、ここでは山の上でも町の中でも飲み水が只である、われわれ日本人にはうれしい。午後はバックボウルを少し楽しむことにして14番のソウルダーリフトに乗りポピーフィールドウエストからチャイナボールにくだる。チャイナボールはとても広くまるで穂高山の涸沢が三つくらい集まった感じのところである。ここの全面が滑れるのだから規模がでかい。曇っていて光の具合が悪いのか斜面の凹凸が見にくくてあまり滑りよくない。21番のオリエントリフトで3467mに登り、ツーエルクロッジに戻る、この途中に少し上り坂がありここにはTバーリフトがかかっている。

 

ツーエルクロッジ(ここは昼食事にはいつも込んでいる)

帰路はイーグルネストからシンバを下る。長いくだりである。

 
 

ブルースカイべーズン

朝は小雪が降っていて、イーグルネストにあがった時はこのまま降り続けるのかと思った、今日はブルースカイべーズンに行く計画を立てているので晴れてほしい。

当初は標高3430mのヘンリーヒュッテからバックボウルにいたるなだらかなスリーピータイムを滑り下る予定で4番のマウンテントップリフトの頂上に出る。ここで入り口を又間違えて5番のハイヌーンリフト沿いの上級コースに入ってしまった。

 
                      フォーエバーの自然こぶの斜面

尾根沿いの急斜面から右手にトラバース気味に林間を滑り降り、自然こぶのフォーエバーの斜面を滑り、サンダウン迂回路を滑り降りる、新雪にトレールをつけているが、サンダウンボウル側にいろいろな筋が出来上がってゆく。このころには空が晴れ上がり久しぶりの快晴になった。5番リフトを登り、頂上で今度はルートを慎重に見つけてスリーピータイムに入るここはなだらかな迂回路で、上のほうはサンアプボウルで滑ろうとしている人が多かったが、林間では人が少なくなってしまう。途中36番のテーカップリフトの下をとおり、さらに21番オリエントリフトの側をとおり、37番スカイラインリフト乗り場に着く。このリフトを上りきったところは3499mのベルズキャンプである。

 
                              ブルースカイべーズン
 
 
                       ロッキーの山々(ベルズキャンプから)

ベルズキャンプの上からはロッキー山脈が良く見える。キャンプからは林の中を自由に新雪を楽しみながらインザウルデスをくだり38番アーリーリフトに乗り上る、晴れているがスキー靴の中の足指がつめたい。

ベルズキャンプから中級のクラウド9を滑るのだが、上の尾根部分を除くと、林の中が自由に滑れるようになっている。自分が好きな斜面を探しながら滑ってゆくと、やがて谷筋の圧雪されたルートに出る。谷の中で39番のペートスリフトの乗り場に出た。ここからこのリフトに乗って3527m地点に出る。3527mのピークから中級のグランドレビューを下る途中で、赤いウエアの背中に英語のアイの印がついた人にリードされている1群のグループに出会った。ベイルでは毎日3グループをガイドするボランテアガイドがいて、朝の10時半に所定の場所に集合すると中級者以上なら、コースを選んで案内してくれるそうである。ガイドさんはところどころで止まって、コースの状態や地名の由来などを説明しながら、滑っていた。こちらは地図を片手にルートを探しながら滑るのだから、ガイドに案内されて滑るのは、きっと楽で楽しいだろう。下のほうでチャイナシュプールに入り、21番オリエントリフトの乗り場に出る。オリエントリフトで一緒になった老夫婦はリタイアしてフロリダ半島東部から年に1・2度スキーに来るという方で、ベイルの印象やアメリカの印象について質問された。話しながら夫婦が住んでいるのはフロリダでも大西洋側で昨年石油の被害が出たメキシコ湾側とは違うということを知った。バックべーズンのチャイナボールを滑ったか聞かれたので、中級のチョップステックを滑ることにする。

 

チャイナボールの下部

チャイナボールは穂高の涸沢を3つ集めたような場所で、どこも滑れる広大な斜面で構成されている、朝のうちにはスキーヤーが思い思いのシュプールを描いてすべり、自分のラインを下から見上げて確認することができる。再度オリエントリフトに乗り帰路に着く。帰路4番マウンテンリフト沿いの上級こぶコース・ゾットに入る。本日は疲れ果てて帰着。

 

 
 
 

ビーバークリークスキー場

ベイルを訪ねたら近くのビーバークリークに行くことも旅の楽しみである。

4日目にして重い腰を上げて、ビーバークリークに向かうことにした。交通路はライオンズヘッドからベイルビレッジまで4分間隔で出ている巡回バスベイルビレッジに行き、ここからタートルバスに乗り約20分で着く。ベイルビレッジとライオンズヘッドの間は朝から夜まで巡回バスが無料でかつ5分間隔で出ており、各停留所には何分待つか電光表示板が付いている、まことに便利である。

 
 
 
 


ビーバークリーク行きのバスは朝
3本、帰り3本でこの時間に乗らなくてはならない。

タートルバスは個人経営ではないかと思われるバスで行きは貸しきり状態、帰りには一緒になった10人ほどの日本人団体が同じホテルまで帰るので、彼らは送迎付きということで私達もホテルまで送ってもらった。

 
   
 
                安全バーについているビーバークリークのガイドマップ

ビーバークリークは地元のスノーボーダーによれば、ファミリーで楽しむのに適している、それと迂回路が少ないのでスノーボーダーに適しているといっていた。そういわれたがビーバークリークでは少し横道に入るとこぶ斜面に出くわすことがわかった。

ベイルでも見たが、スキーリフトの安全バー(前に落ちないように自分で操作するバー)についている、ガイドマップが便利であった。リフトに乗りながら地図を取り出さないで、どこを滑るか計画できる。

 

森の中の子供冒険ゾーン

ところどころに子供冒険ゾーンがあり、森の中に入ってゆくとインデアンのテントなどがある、このように誰でも森林の中を楽しむことができる。

 
 

初心者用の動くカーペット

初心者や子供のためのスクールと設備が優れており、かつ林の中を遊び的に滑ったりする場所の設定があり自然と親しめるゲレンデとなっている。

 
 

新雪のこぶ斜面

他方圧雪してない斜面では、自然こぶが新雪のときにあちこちでできて、雪が柔らかいので転倒しても痛くなく、長いこぶ斜面を楽しめる。

 
 
 

ベイルの町

ベイルの町の便利さは、市内バスにある。5分間隔で動いているので、好きなときにライオンズヘッドとベイルビレッジの間を行き来できる。

ライオンズヘッドのひとつ手前にわれわれが泊まったエバーグリーンロッジがある。日本人の利用が多く、われわれの滞在中に10人程度の人が同宿していた。バス乗り場の前にアイスアリーナと図書館がある。アイスアリーナでは夜になるとアイスホッケーなども行われていた。

 
 
カーニバルの仮装

ベイルビレッジでは木曜日の夕方がカーニバルということで仮装した人々やお祭りを楽しむ人が出かけていた。

 
 スキーアメリカのリンク先www.goskiamerica.com
 
                           ベイルビレッジの散策

一度ベイルでスキーをしたら病み付きになりますといっていた先輩の言葉は嘘ではなかった。日本のスキー場ではチョコチョコと小回りをしたり、スノーボーダーとぶつからない様に上下左右を見ながら滑っているが、一面の新雪の斜面に数人しかいないベイルでは思い切りスピードを出しても問題がない。もっとも下山路とかリフト乗り場の近くでは人が集まるのでスローダウンと書いてありみんな注意している。

ベイルに行く前に日本スキー連盟の講習会に参加しており、やれ「谷回り」だの「プルークボーゲン」の脚の位置が違うなどと注意されていたのに比べて、ここベイルではスキーは自己責任で雪山を滑り降りるという感じで、森林やがけなどを滑っているのを見ると楽しみ方の規模が違うと実感した。

なお、スキーアメリカの大森良子・ジミー夫妻にはベイルの楽しみ方を親切に教えていただいた感謝しています。

                     スキーアメリカのリンク先です。www.goskiamerica.com